フラッシュバック・メモリーズ3D


シネマスコーレの良さは支配人にあり、かも。ある意味長いお付き合いですので改めてそう思うことがなかったのだけど、今日そう思った。映画館に行くといつも満面の笑みで、それは「これね、ほんっとうにいい映画なんだわ。うひひひひ」みたいな、どこか秘密のいいモノ見せてあげるよ的な笑みなのね。「あんまり大きな声ではいえないけれどさ、儲かっちゃって儲かっちゃって。いひひひ」と言って笑う下町商人の笑みに似てる。そういう笑顔の人が迎えてくれる映画館って、他にないよね?名古屋はこれを誇りにしても良いと思う。
そういう笑顔に迎えられ、楽しみにしていた松江哲明監督の「フラッシュバックメモリーズ・3D」を観てきました。

GOMAという日本のディジュリドゥ奏者。2009年に高速道路で後方から追突され、その事故により高次脳機能障害を患う。記憶がどんどん消えていってしまうそうなのだ。そのGOMAのドキュメンタリー映画


最初に演奏してるGOMAの映像に被って、GOMAに関するテロップが流れる。そこで私たちは彼についてのおおまかな歴史を知る。記憶が消えていくということについて、とりわけセンチメンタルに語られない。私は、この演奏している男は、演奏しながらもこの瞬間を忘れていってるのだろうか、それってどういうことなのだろうと極めてドライに考えていた。
そのつもりなんだけど、
あれ、私の左目から涙が出ているではないか?
おかしいなー。3Dメガネで早くも疲れたか。
しばらくしたら今度は右目から涙が出てきた。
ますますおかしいなー。音楽は、とてもいい感じだけど、琴線に触れて聞いたら一発で涙が出るタイプのものではないんだけどなー。
本当にちょっと理由はわかんないんだけど、悲しいとか可哀相とか切ないとかそういった感情とは無縁の、演奏してる姿や音が呼び起こした目から出る水。

さて、3D。データのテロップと過去の映像と現在の演奏をこんな風に3Dで見せるなんて、うまいなあー。ナイスだなあー。こんな3D、アリかあ!
そういう松江監督の見せ方や問題の提示の仕方のうまさに何度もハッとする。
そして最後の最後、GOMAさんのライブの終了の後に表れる日付のカウンター。1秒1秒が過ぎていく。前に向かって。私にも誰にもこうして時間が過ぎていくのだけど、その意味の本当の本当の意味をこの映画は最後になって見せてくれる。実は終わり近くの演奏シーンも再び目からつるりつるりと水が流れてきてたんですけど、それを見た瞬間にぶわっと涙となって溢れてきた。
1秒、1秒。この重なりが記憶であり生きることであり、そして1秒1秒ごとに失われていく、それもまた記憶であり生きることでもあるんだ。
松江監督は、そうか、時間の人なんだ、と思った。
「ライブテープ」で2009年1月1日の吉祥寺の74分を切り取り、「あんにょん由美香」では亡くなった林由美香の時間を未来へ繋いでいく。松江監督が切り取っていく時間は、いつもはっきりと未来へと向けられている。や、確かに時間というものはそういうものなのだけれども、松江監督の映画がそのことを思い出させてくれるんだ。

http://flashbackmemories.jp/