大林宣彦監督に会う、なんてこと考えたこともなかったよね、10代のワタシよ。

30代に好きになった人はいっぱいいて、
レスリー!そんでウォン・カーウァイ、他にも香港や中国の映画監督、それから書ききれないよ日本の多くのミュージシャン)
40代に好きになった人も何人かいて、
(最たる人は未映子さんでしょ。それからあの人とこの人と)
そういう人の何人かと、今、ここにある「うちの店」で現実に会うということ。それはいつだって本当に胸が熱くなる出来事なんだけども、
10代から20代前半に好きになった人に会えてしまった喜びって、やっぱり、ちょっと特別。
それは単純に「好き歴」が長いって事もあるし、
(だって私は一度好きになったらずっと好きだし)
しかし、それだけでもないと思うのは、10代から20代前半に好きになった、それを選んだ、その感覚は、全部、「今」に繋がってる。「今」の先っちょになってるからじゃあないのかな?

だから、梅津和時さんが、巻上公一さんが、楳図かずお先生が、つボイノリオ氏が、うちの店に来てくださった時は、私の全部の細胞が一斉にくるりと後ろを振り返って、
「見てみて! 見てみて! 10代のワタシ!!
ここに、あの人がいるんだよ!!」と沸き立ち、叫びたてているようだった。

ああ、そして、今日も、だよ。

10代の時も大好きな映画監督は何人かいたけども、大林宣彦監督は、大林作品は、私にとっての何より激しい思いのようなもの。
映画の中に、私は何を見てたのかな、と今日、改めて思い返す。多分、前に進むことは必然なのだけども、それでもどうにもならない過去の刹那への希求、それが私のツボだったのかな。
「転校生」も「時をかける少女」も好きだけども、私のベスト3は

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北京的西瓜」。
あ、3つとも映画に関する映画だわ。きっと、それもツボ。
北京的西瓜」のラストシーンは、未だにこれを話すだけで泣けてしまう。

あ、いつものように前置きばっかり長くなったわ。
今日はスコーレで大林宣彦監督を迎えてのトークイベント。詳細は直井さんの作ってらっしゃる雑誌「SPOTTED」に掲載されるらしい。私は買うわ!
で、その前に、スコーレの人たちや関係者、直井さん、字幕翻訳などされてる桑原あつしさん、そして大林監督が来てくださいました。
イベントが始まるまでの1時間半、うちにいらっしゃったんですけど、その1時間半、ずっと大林監督が喋っているの。
テレビなどで見るのと一緒。穏やかでにこにこしてて、声のトーンもテレビで見るのと変わらない。
決して大きい声で話してるわけではないのだけど、ちゃんと声が届く方で、うちの店の中の隅々まで大林監督の声で満たされてるようだった。私は他のテーブルを拭いたり、何かを片付けたりしながら、その声を拾うかのようにして聞いていた。
殊更抑揚をつけたり、大きな身振り手振りもない。
流れるように話してるのだけど、文章としてとてもきっちり。美しい。語尾が乱れることなく、破綻のない話し方。そして、大林監督独特の、一瞬を切り取ってそれをいとおしむような、そういう文章がさらりと挿入される。うーんと、どういうのだったかちょっと思い出せないけど、ニュアンスとしては大林監督の作品「伝説の午後 いつか見たドラキュラ」、こういう感じの一瞬を思わせる言葉よ。

うちの店での話の殆どは、今日上映された「HOUSE」当時の、10代半ばの子供たちにはとてもウケたが映画監督としては正当な評価を受けていなかった時代の話、映画評論家の人たちは個人的には「好きだよ」と言ってはくれても、おおっぴらに大林映画を認める時代ではなかったこと。
故・淀川長治さんだけが外に向かって好きだと言ってくれたこと。
(話はそれるが、淀川長治さんに関する話で興味深かったのは、淀川さんが小津安二郎監督を評価していなかったというのは有名な話のようだが、小津作品を淀川さんは全くわからないと言い、だからこそ、その作品には触れない、語らない、というスタンスだったそうだ。
私は、「批評ってなんだろう、その意味は?」と思うことがよくあるのだけども、私も淀川さんのその姿勢を見習いたい。)
映画は必ずしも最初から観るばかりではなく、途中から観る面白さの話。
大島渚監督が、「映画監督っていうものは、吹雪の中で一人立っているようなものなんだ。それを君は、穴を掘って、その中でぬくぬくにこにこしながら映画を撮っているようじゃあないか」と言った話。
これまでずっとずっと休むことなく映画の日々で、今、初めて数ヶ月間の休みをとっているそうです。なんかそのことにもびっくり。

これからトークだというのに、本当にずっと1時間半、楽しそうに淀みなく話されてて、きっとそのあとのトークでも、同じようにずっとお話されたのでしょうなあ。(残念ながら私はスコーレのトークには行けませんでした・・・)
その後の打ち上げの席にちらりとお邪魔させていただきましたが、やっぱりそこでも監督はずっと気持ちよさそうに話されてたなあー。

監督に会いたい、なんてことは考えたこともなく、ただ激しい恋のように私は大林作品が好きで、何度も何度も見て、おんなじところでいつも泣いていた。
イカ天」の後番組「エビ天」(映像作品公募番組)での監督の一言、ちょっとうろおぼえだけども、
「僕は監督としてはいつまでもアマチュアですが、映画を好きだという気持ちだけはプロです」という言葉を聞いた瞬間、ぶわっと泣けた夜。
20年以上前のワタシへ。今日、大林宣彦監督に会ったんだよ。