「ライブテープ」松江哲明監督 シネマスコーレにて

今年1本目の映画になりました。
去年観た映画で何が良かったかなあと思うと、松江監督の「あんにょん由美香」は入るなあ。
さてさて、この映画にはミュージシャン前野健太が出ています。
いえ、どっかの神社の前から始まって、吉祥寺の井の頭公園にあるステージまでずっと歩きながら歌い続ける前野健太を75分間、1カットだけで撮った映画です。
では前野健太に関するドキュメンタリーかと言うと、どうも私にはそうとは言えず、これは「松江監督に関するドキュメンタリーじゃん?」と思うのです。
2009年1月1日を松江監督はどう過ごしたか。それは、前野健太を撮るための一日、前野健太と共にある一日、そういう映画だったように思います。「あんにょん由美香」が林由美香のドキュメンタリーではなく、彼女の出演した映画を巡る様々な映画人のドキュメンタリー、であるけれども実は、彼女の出演した映画を巡る様々な映画人を撮ることによって改めて彼らと出会う松江監督自身のドキュメンタリー、であった(と私は思った)ように。
で、2009年1月1日の中の、撮影するとあらかじめ決められた75分間という時間の中に、あらかじめ決められた道、仕込まれて配置された人。そして、そこの中に映りこんだ、まったく偶然の人、車、音、空。
それらの調和がなかなかに素晴らしいと思った。
歩く前野健太、歌い終わる前野健太に介入してくる松江監督の声。
正直言うとちょっとカンに触るようなキンキンした松江監督の声が歩いている前野健太に介入する。音のレベルの問題とか。サングラスを取れ、とか。観客である私はやだな、と思う。うざいな、と思う。けど前野健太はしばらくしたら大き目の黒いサングラスを外すのね。あれ、外すんだ、と思う。ああ、なんか松江監督ってそういう人なんだ。そう、こうやって常にサングラスをかけ続けているような人のそれを、最終的には外させてしまうような。前野健太から発する何かも少しずつ緩んできてる。そう思ったら、不思議なことになんだかほうっと肩の力が抜けた。1カットで撮っている映画に相対しての緊張が私にもあったのだけども、もっとこの映画の中の時間、この映画の中の前野健太と松江監督と通り過ぎていく市井の人たちを気持ちよく受け入れることが出来た。
ラストシーンは、2009年1月1日の「あらかじめ」と「偶然」が重なって溶け合ってとても美しいラストでした。